はじめに
「親なきあと」という言葉は、障害のある子どもを持つ親御さんにとって、避けては通れない大きなテーマです。親が亡くなった後に、子どもがどのように暮らしていくのか、不安や心配は尽きません。その一方で、親が子どもの将来を思うあまり、自分自身の老後設計を犠牲にしてしまうケースも少なくありません。
この記事では、実際に多くの方がされている「子どもに財産を早めに移してしまう」ケースを取り上げつつ、親御さん自身の生活も守りながら、子どもが将来安心して生きていけるための工夫について考えていきます。
子どもを思うあまり財産を移してしまうリスク
「自分が元気なうちに、子どもの生活資金を確保してあげたい」
「親が亡くなった後、手続きが煩雑になると子どもが困るから」
このような思いから、生前贈与や名義変更によって、親の財産を子どもへ早めに移してしまう方がいます。確かに、相続時の手続きを簡略化できるメリットはありますが、注意しなければならない点もあります。
親自身の老後資金が不足するリスク
長寿化が進む現代において、老後の生活費は想像以上に必要です。平均寿命を超えて90歳、100歳まで生きる可能性もある中で、十分な資金を残しておかないと、介護費用や医療費で困る事態が起きかねません。
生活保護に頼らざるを得なくなる可能性
子どもに資産を移しすぎてしまうと、いざ親が生活に困った時に生活保護の申請が難しくなる場合もあります。
子どもの安心と親の安心を両立する方法
1. 遺言書の活用
親が元気なうちは財産を持ち続け、自分の生活を守る。そして、亡くなった後に子どもに確実に財産が渡るようにする。そのためには 遺言書の作成 が有効です。公正証書遺言であれば法的な効力が強く、相続トラブルを防ぐ効果もあります。
2. 信託制度の活用
「自分の判断能力が低下した時に備えたい」と考える方には、家族信託 も選択肢となります。信頼できる親族に管理を託し、生活費や介護費用を確保しながら、残余財産を子どもに承継させる仕組みを整えることができます。
3. 成年後見制度の準備
もし将来、判断能力が低下した時に財産管理が難しくなることを想定して、任意後見契約 を結んでおくのも有効です。事前に信頼できる人を選び、親自身の生活と子どもの将来を守る体制をつくることができます。
4. 子どもが頼れる人を増やしておく
親が亡くなった後、子どもが孤立してしまうことは大きなリスクです。そのため、子どもが親以外にも安心して頼れる人を増やしておくことが重要です。
-
親族やきょうだいとの関係をできるだけ維持する
-
福祉サービスの担当者や相談員と信頼関係を築いておく
-
地域にある「親なきあと相談室」や地域の支援団体に参加しておく
こうしたつながりは、親がいなくなった後に子どもを支える大きな力となります。親自身も「自分以外に子どもを気にかけてくれる人がいる」と思えることで安心感が増します。
親御さん自身を大切にすることの意味
「子どもの将来が心配だから、自分のことは後回し」
このように考えるのは親として自然なことです。しかし、親御さん自身が安心して暮らせることが、最終的には子どもにとっても安心につながります。
-
親が経済的に安定していることは、子どもへの精神的な支えになる
-
親が健康で暮らせる環境は、子どもの生活基盤を守ることにつながる
-
親が無理をせず、自分の老後も考える姿勢は、子どもにとっても良い手本になる
つまり、親自身を大切にすることは、子どもを大切にすることと矛盾しません。
専門家に相談するメリット
「親なきあと問題」は、法律・福祉・医療など幅広い分野にまたがる複雑な課題です。行政書士としてご相談を受ける中でも、親御さんが一人で悩みを抱え込んでいるケースをよく目にします。
-
遺言や信託など法的な備え
-
障害年金や福祉制度の利用
-
介護費用のシミュレーション
-
子どもが頼れるネットワークづくり
これらを総合的に検討することで、無理なく「子どもの安心」と「親の安心」を両立させることが可能になります。
まとめ
親なきあと問題は、親が子どもを思う深い愛情から生まれる課題です。しかし、その心配過ぎるあまり、自分自身の老後を軽視してしまうと、かえって子どもにも負担をかけてしまうことになりかねません。
大切なのは、
-
子どもの将来の安心を確保すること
-
親自身の生活と老後を守ること
-
子どもが親以外にも頼れる人を増やしておくこと
この三つをバランスよく考えることです。遺言や信託、後見制度、そして人とのつながりをうまく活用しながら、親も子も安心できる未来をつくっていきましょう。
スイートピー行政書士事務所では、「親なきあと」に関するご相談を随時承っています。遺言作成から信託制度、成年後見契約、地域の支援団体とのつながりづくりまで、お一人おひとりの状況に合わせた最適なご提案をいたします。親御さんも、息子様、娘様も安心できる生活を作っていきましょう。